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迷子

2月9日は旧正月。このシーズン、中国系の国や街では春節のイベントがある。昨日は獅子舞が各店を回る採青という行事があるということで、横浜中華街に行ってみた。

050211_shishimaiところが、これがもう、ものすごい混雑ぶりだ。
もともと観光客のためというよりも、地元の人たちのための行事なのだろうけれど、連休中日で混雑している中華街の真ん中で、突然爆竹がなり、獅子舞が舞い始める。それも、ひとつの店の前で踊っては、また次の店へとまわり歩くため、群がる見物者と歩行者がぶつかるかたちとなって、メインストリートは満員電車の様相だ。いや、満員電車は乗り降り以外に動かずにすむけれど、この場合基本的には道だから、人の移動はもっと激しい。しかも、獅子舞は店の前で背をかがめて踊るので、音はすれども姿は見えず。皆必死になって背伸びし、獅子舞の姿を探している。

そんな中で、もみくちゃになって泣いている女の子がいた。

その子は、私の腰ほどしかない小さな体で、大人たちに容赦なくはさまれ、つぶされそうになっていた。周りに親らしき人はいない。泣くといっても、よくある子供の癇癪のような泣き方ではない。おびえ、つかれきった様子で、顔はすっかり青ざめていた。

私は基本的に、世の中の平均的な婦女子に比べて母性本能が乏しいほうだと自覚している。でも、この子は放っておけなかった。まるで、傷つき群れからはぐれて震えている小鳥のようだった。周りの人はみな、獅子舞を見ようと夢中で背を伸ばし、背の低い子供は目に入らない。ここで転びでもしたら、この子はおそらくあっというまに踏みつけられてしまう。爆竹や獅子舞の音で、小さな声もかき消されてしまうだろう。

私はとっさに、その子を自分の前に手繰り寄せた。「お母さんはどうしたの?わからなくなっちゃったの?」と聞くと、女の子は少しだけ安堵の表情を見せ、小さくうなづいた。

しかし…さて、これからどうしたものか。

とりあえず、この子がつぶされる心配はなくなったものの、驚異的な人ごみの中、簡単に親御さんが探し出せるとは思えない。よしんば見つかったとしても、きっと親御さんはこの子を必死に探しているはずだ。このご時世では、私とこの子を見つけたとたん「誘拐だ」と騒ぎ立てることだって考えられなくはない。

さりとて、この子を再びこの場に放り出すわけにもいかない。とにかく安全な場所に移動して、親御さんが見つけてくれるのを一緒に待つしかないだろう。
そう考える間も、人ごみにもみくちゃにされつつ、私は必死にその子をガードしていた。他人様の、しかも泣いている子供を連れているというのは、まさに割れ物に触る思いだ。できればこういう経験はしたくない。それでも、あの子のおびえきった顔を見たら、私が守らなければならないと思ってしまったのだ。

結局、安全な場所を探して移動する間、観客誘導の係員が見つかり、その人に預けることになった。突然の迷子の登場に係員も少し戸惑っていたけれど、無線でどこかに連絡し、迷子情報を共有しているようだった。これで親御さんが開催関係者に聞けば、この子の所在がわかるだろう。私が一緒にいるよりも早く見つかるに違いない。そんなわけで、私はここでお役ごめんとなった。

それでも…
昨日からずっと、このことが私の頭の隅に残ったまま、離れないでいる。

あの子は無事お母さんに会えたのか、私がしたことは本当に良かったのか、実はあの時、親御さんは案外近くにいたのではないか…などなど、考えるときりがないのだ。

でも、放っておくことも出来なかった。もしそのままにしていたら、あの子は本当に転んで踏みつけられてしまったかもしれないし、たとえ親御さんが近くにいたとしても、背の低いあの子は全く周りが見えず、親御さんもあの子の姿は見えない。あの状況では互いにどんどん流されてしまっただろう。

なんにせよ、大人でも辟易するような大混雑の中、小さな子供の手を離しちゃいけない。どういう事情があったのかわからないけれど、全く周りが見えない状況(あの子から見えたのは自分を容赦なく圧迫してくる大人の腰だけだったはずだ)で親からはぐれた子供の不安、恐怖はいかばかりだったろうか。

もちろん、親御さんも必死にわが子を探していたはずだ。子供を見失った自分を責めて、あの子同様、不安に青ざめていたかもしれない。それを思うと、また胸が痛むのだけれど…。

(いや、案外親御さんはケロッとしていたりして…そうだったら許せないなあ)

あの子は昨晩、無事お母さんの元で、安心して眠れただろうか。
よもや見つからなかったということはないだろうけれど、あの子の笑顔がみられないままだったのが、少しだけ心残りだ。

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